重要なお知らせ
スタンフォードB型急性大動脈解離
背中をバッドで殴られたような痛みや胸痛で発症する重篤な疾患です。大動脈の壁が裂ける事で発症します。
前駆症状が全くないため普通に生活していた方が突然に発症します。
難しい疾患ですので順を追って説明します。
1 大動脈の位置と解剖


2 大動脈の役割

大動脈は心臓から送り出された血液の通り道=パイプ(土管)です。動脈は末端に行くにつれて徐々に細くなり最終的に毛細血管となって各臓器に血液が行き渡ります。皮膚・筋肉・骨・臓器全てに血液を行き渡らせます。全ての細胞・臓器は血液から栄養と酸素を貰っています。

動脈(パイプ)が詰まれば血液が流れなくなります。臓器に血流が届きません。人間がご飯を食べなければ餓死するのと一緒で、臓器や細胞も餓死します。これが梗塞や壊死です。

また動脈(パイプ)が破れれば出血します。土管が破裂して水が溢れ出るのと一緒です。
3 解離の病態
- 大動脈壁は内側から内膜・中膜・外膜の3層構造からなります。中膜の深さで壁が剥離し内腔(血液の流れる空間)が2つとなった状態です。
-
内膜に亀裂(tear)が生じ、血液が流入し(入り口:entry)本来の腔(真腔)とは別に動脈壁内に新たな腔(偽腔)が生じます。両方の腔はentryまたはreentry(別の場所にも出来た亀裂)によって交通します。
- しばしば偽腔が拡大して瘤を形成したり、偽腔によって真腔が圧排されて血液が流れなく(虚血)なったりします。
紙コップでの再現

CT画像と紙コップモデルの比較

亀裂(Tear)の術中所見
大穴(亀裂:Tear)が空いているのが分かります。

4 解離の分類〈スタンフォード分類〉
〈A型〉上行大動脈に解離がある / 〈B型〉上行大動脈に解離を認めな
5 急性大動脈解離の合併症
(1)破裂
外側の壁まで破れて血液が漏れて出血している状態


(2)虚血
真腔が偽腔に押し潰されたりして血液が流れにくくなり、血液不足による臓器障害。


(3)心合併症(A型のみ)
急性大動脈弁閉鎖不全、心タンポナーデ、急性心筋梗塞
症例数 | 105例 |
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破裂/ショック | 22例 |
急性/陳旧性心筋梗塞 | 8例 |
急性/陳旧性脳梗塞 | 7例 |
腸管虚血 | 1例 |
四肢虚血 | 12例 |
大動脈弁閉鎖不全 | 16例 |
6 症状
解離は激痛(背中をバットで殴られたような痛み)95.5%が何らかの痛みを自覚、
84.8%が突然発症。破れた瞬間が最も痛いとされます。
搬送中に痛みが減弱している可能性もあります。
痛みが減弱していれば軽症と捉えられ 誤診される事もあります。
典型的な症状
1 胸痛 | 72.6% |
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2 背部痛 | 53.2% |
3 腹痛 | 29.6% |
4 失神 | 9.4% |
誤診されやすい症状
意識障害 | 17.2% |
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下肢痛 | 5.1% |
対麻痺 | 2.4% |
片麻痺 | 2.3% |
心肺停止 | 30.0% |
-
破裂
眼前黒色感、失神、突然の血圧低下、冷や汗、冷感、末梢チアノーゼ -
腹部臓器虚血
突然の腹痛(食事時に誘発される事も)、嘔吐、下血 -
四肢虚血
疼痛、蒼白、しびれる、冷たい、感覚障害、マヒ -
脳虚血
意識障害(変容)、半身マヒ・感覚障害、顔面の歪み -
心合併症
ショック、突然の脈圧の拡大、呼吸困難、SpO2低下
7 急性大動脈解離の治療方針
A型 | 原則手術 (当院では心臓血管外科が担当しています) |
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B型 | 降圧・鎮痛・安静・脈拍コントロールが原則 虚血・破裂(合併症)を生じたら手術 |
死亡率 | 保存的治療 | 手術治療 |
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A型 | 55.9% | 26.6% |
B型 | 9.6% | 32.1% |
(1)A型急性大動脈解離の手術


(2)B型急性大動脈解離の治療

- 破裂・臓器虚血があれば緊急手術
- なければ保存的治療
- 〈降圧〉目標100~120 mmHg
- 鎮痛・鎮静
- 脈拍数(レート:Rate)コントロール
- 拡大が予想される場合、早期(1年以内)に拡大予防手術(preemptive TEVAR)を行います。

